8.06.2009

群馬探訪その2

事件の香りこそすれど何も起きなかった榛名湖を後にし、我々は夕刻、予約していた洋風旅館にチェック・インした。伊香保へ投宿するにあたり事前にあれこれ検索していたところ、フレンチのフルコース付き1泊2食で8800円という破格の内容に惹かれここに決定しながらも、余りに安いので何か致命的な欠陥があるのではないかと恐れていたが、概観は新しくコンパクトでシック。ロビーに入ると高級そうなバーカウンターなどが置かれ、オーナーが道楽者であろうことを匂わせた。

部屋に荷を置き、私は早速入湯する。風呂がまた新しく、檜の香りが漂い期待を裏切らないものであった。他に誰もいない浴場を満喫した私は部屋に戻り、レストランへ向かいディナーをいただく。想像していた以上の繊細かつ美味で、それでいて気取ってはいない皿の数々が我々を迎え撃ち、これまた大いに満喫する。ここまで良い条件が続くと心配性が顔を出し、何で安いのかという説明がつかず気味悪くもなってくるが、部屋が多少狭いというのと、伊香保の中心である階段坂からは歩いて10分程度かかるという立地条件に無理矢理安さの理由を見出し、納得する。

ゆったりとした夕食を終えると20時を過ぎていた。温泉地の夜は更けるのが早いが、雨も上がったことだしと、私はパートナーと階段坂の方へ散歩に出掛けた。平日ということもあって、人影はほとんどなく、店も多くは閉まっている。それでもライトアップされた夜の階段坂には風情があって、飽きることはない。元々私が何故伊香保に興味を抱いたかというと、成瀬の「浮雲」や小津の「秋日和」といった映画に出てくる、モノクロの階段坂に深い感銘を受けたからなのであるが、私の目前にある夜の階段坂は、勿論カラーではあるのだけど落ち着いたライティングによって夜の闇が逆に強調され、映画で見た印象に近い雰囲気だ。

(夜の階段坂)


人気のない階段を一番上まで登ると伊香保神社がある。辿り着くとその狭い境内ではいきなり100人ばかりの群集、それも地元の人たちがうろうろと、何かが始まるのを待つようにして時間を潰している。何事かと思い待つこと30分。提灯行列がはじまった。年に1度の地元のお祭りに我々は偶然、遭遇したのであった。観光客を拒絶するでもなく、それでいて宣伝するでもない。大きすぎず小さすぎもない規模の粛々とした提灯行列が、伊香保の階段を降り、小道を練り歩く。その様は美しかった。


(提灯行列)


提灯行列の一行を見届け宿に帰り、もう一風呂浴びたが、今度もまた風呂場を独占することができた。だが好事魔多し。私はここで、宿のマスターキーと車のキーを取り違えて持ってくるという人生初のへまをやらかした。部屋のある本館ではなく、離れに位置する風呂から戻る際、その事実に気付いた私は本館に入ることが出来ず、絶望的な気分でタバコをふかしていた。3本ほど吸った頃だろうか、離れの戸締りに現れた従業員の出入りに便乗して私は、何とかこの窮地を逃れることができた。

(まだ続きます)

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