7.09.2007

自転車旅行 -十日町編-

今年もアツい夏が到来した。

内輪話から始まり恐縮なのだが、去年の今頃だろうか、仲間内の一部で「アツい夏」という言葉がキーワードとなった。その先鞭をつけたのはおそらく私が突発的に「自転車で東京から新潟県まで行ってくる」と発表したからである。私が乗っている自転車は近所のスーパーで購入したシボレー製のモトクロス風バイクで、とても遠出に適しているとは言えず、また自転車に責任転嫁するまでもなく、私自身が普段から特に体を鍛えてもいず、自転車を趣味として乗り回しているわけでもなかった。つまり無謀な企みだったのである。

しかし私には幸いにも、この発表を受けて賛同し、共だってくれる友人が存在した。私はその彼とスケジュールをすり合わせつつも、同時に出発することが難しそうな状況であったため、去年の8月某日夜に自宅のある東京を離れた。何故夜に出発したかというと、真夏の日差しを少しでも避けるという狙いと、目的地である新潟県十日町市までの距離やどこに宿泊地を設定するか、私が1日にどの程度の距離を走れるかなどを想定した結果、導き出された判断なのであるが、1日にどれほど動けるかなんてことは、今までに一度も自転車で遠出をしたことがない者にとって計算のたつものではない。結局のところ、直感で決めたわけだ。

初日の夜は3時間程度走り、大宮の先にある街道沿いの漫画喫茶で休止し一夜を明かした。しかし士気が高揚してしまいなかなか寝付けず、ほとんど徹夜に近い状態のまま次の日を迎えた。友人はこの日、千葉県の自宅から私を追いかけてくることになっていた。

2日目、どこまでも平坦(に見えるが、おそらく緩やかな登り傾斜なのであろう)な埼玉県を走る。ほぼ徹夜明けの体にも関わらず快調に時速20キロ平均で飛ばしていく。「マルホランド・ドライブ」という映画で、デビッド・リンチはマルホランド・ドライブと書かれた道路標識がゆっくりと流れていく車窓を何カットか効果的に使用しているのだが、20キロで走る自転車から見た"高崎まで何キロ"なんていう標識の移ろいはまさに、そのカットの臨場感を再現しているかのようだった。自転車を走らせて得る爽快さと、徹夜明けの気だるさ、それにそろそろ気になりだした荷を背負う肩の痛みを複合的に感じながら、昼過ぎには群馬県に入る。気のせいか、急に道が良くなったような印象を受ける。ここまで内地へ来ても、利根川が大河の趣きを残していることに、やはり隅田川や多摩川とは格が違うなと感じ入る。

と、至極順調なサイクリングを遂行していた私に衝撃的な一報が届けられたのは、私が高崎・前橋と過ぎ渋川付近の街道沿いにあった温泉で休憩している最中であった。昼を越え、夕方に差しかかろうという時である。私を追いかけていた友人の自転車が、走行中にいきなり前輪を外し、バランスを失った友人は顔面から道路に突っ込んで負傷したというのだ。電話から聞こえる友人の声は比較的平静なものであると理解したが、その友人は元々、相当に肝の据わった性質なので、怪我の具合やツーリング続行の可能性が今ひとつ判断できない。私は気の利いた台詞を言うこともままならず報告を受け、とりあえず出発。沼田にある温泉施設のカプセルルームに投宿した。

(長くなりましたので続編を設けることにします)

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