3.06.2007

自動車免許の再取得6

再試験の会場には、前回と違って複数の受験者が待機していた。私は電車の接続が悪くて5分遅刻したが、咎められることなく手続きを済ませ、試験に臨むことが出来た。しかしいくら注意されなかったからといっても、遅刻した当人としては、自分が悪いとはいえ出鼻をくじかれたというか、少しは遅刻によって受験できなかったという事態も覚悟して会場に駆けつけた手前、受けられてほっとした半面、"今回は受けられただけでも良しとするべきかな"というようなネガティブ思考を身に纏ってしまった。

私の順番は2番目で、前の受験者が運転する車に同乗して事前にコースを下見することが出来た。20歳前後であろう若い受験者の運転に、私はあまりミスを発見しなかった。運転自体はややぎこちないものの、ポイントは丁寧に押さえたドライビングに見えたのだが、彼は無情にも落第。これで私のネガティブ思考はますます増幅し、開き直りにまで昇華した。これで完全に落ち着くことが出来た。

私の番になった。坂道、踏切、交差点、直線45キロなどの項目を次々とこなしていく。もはや運転しながら自己採点していくことを放棄していた。今自分で運転している様が試験官にどう採点されるのかをほとんど気にすることのないまま、私はS字を超えクランクに入った。程なく「あ・・」という試験官の声が車内に響いた。前輪が縁石を軽く踏んでしまったのだ。私はS字・クランクに関しては何の心配もしていなかった。教習中も失敗したことがなく、前回の試験でも問題なくクリアしていた。よもやここで縁石を踏むことになろうとは思いもよらぬ事態だ。しかし私は、わずかコンマ何秒かの間に次のような仮説を頭に描いていた。"試験官が「あ・・」と発声したのはおそらく、ここまでミスがなかったのにこんな簡単なところでやってしまったからで、今のところうまくいっているのだ"と。ネガティブから出発した気分は、開き直りを経ていつの間にかこんなにもポジティブなものへと変貌を遂げていた。私は落ち着いた手つきでバックギアを入れ、車の姿勢を正し、クランクに再突入した・・

2度目の受験で、私は仮免許証を手に入れた。実際に教習所で車に乗り出してからここまで約半月程度。早くはないが遅くもなく、免許再取得までの道程において、ここで道半ばという具合だろうから、まあ3週間後ぐらいには晴れて目標を達成できるかなと、私はこれからの道筋を立てつつ軽い満足感に浸っていた。この後路上で数度にわたって教習を受け、特定講習を受講し、取消処分者講習というものに参加すれば本試験受験となる。

しかし、事は思うとおりに運ばないものだ。私は試験翌日、取消処分者講習の予約をするために東陽町の江東運転免許試験場へと向かった。本当は前日に試験後、鮫洲で予約をすれば良かったのだが、私はそれに気付かず、また用事もあったので仮免許交付後いそいそと鮫洲を後にしていたのだった。その日私は東陽町のほうが鮫洲に行くよりも都合が良かったので、江東試験場へと足を運ぶことにしたのである。鮫洲よりも新しく、やや空虚な感じを漂わせた場所だ。私は1階の受付で指定された窓口へ行き、その窓口で指定されたまた別の窓口で用件を伝え、返事を待った。

窓口の女性は一旦奥へ引っ込むと、カレンダーを持って現れた。カレンダーは2ヵ月後のページがめくられていた。「一番近いところで、この日になりますけどどうしますか?」彼女は少し申し訳なさそうに言った。私はまさか2ヶ月も待たされることになるとは思わなかったので、「どうしてもこの日まで受けられないんですか?」と訊ねてしまったのだが、そんなことで答えが変わるはずもなく、仕方なしに勧められた一番近い日の予約を入れた。

ここでようやく、この連載は現実の時間に追いついた。3月6日現在、私は取消処分者講習を受けるまでの2ヶ月間という、長い時間の真っ只中にいる。営業所にいる教官のおじいさんからは「取消処分者講習は大体、2週間後ぐらいまで埋まってますよー」なんて具合に聞かされていたのだが、2週間がどうなると2ヶ月になるのか。おじいさんがそこまで適当なことを言っているとも思えないが、私は、道路交通法の変更に伴って免許取消処分を受けた人が一気に増加したからなのではないか、そしてその変化に、おじいさんがまだ気付いていないのだろう、という風に推測している。

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