2.08.2008

再会

引越しは無事終えたものの、元々散らかってた一軒家に輪を掛けて山積みとなったダンボール箱や棚などを徐々に片付けなくてはならないというプレッシャーを感じつつ、雑事などの合間にそれをやってしまおうという気概がいまいち湧いてこない2月初旬のある日、私はとある7人制フットサル大会へ出場することになった。以前在籍していた会社の社員によるフットサル大会である。

以前と言っても既にその会社を辞めてから8年は経っているのだが、同期入社した友人たちとは今でも交流がある。その中には私と同様に、未だにボールを蹴っている奴もいて、そいつに誘われたというのが出場に至る経緯なのだが、大会2週間前に参加した練習で、私が入るチームにはその友人以外に知った顔が存在しなかった。しかもその友人は急用により大会には参加しないことが明らかになり、私は一度、出場を躊躇したのだが、事前練習で出会ったチームの面々が気さくな人たちだったことと、もう一つ、再会してみたい人が別のチームから大会に出るはずだという予想が後押しして、結局私は参加することにした。

当日、会場が家と近かったので自転車を漕いで向かった先は、200人を超そうかというプレイヤーであふれていた。23チーム参加による大きな大会だったのだ。会場をうろうろして、2週間前に会ったチームメイト達を見つける。相変わらず気さくに対応してくれてホッとする。そして隣に陣取る敵チームを見やると、偶然にも私が再会したいと思っていた人がその輪の中にいたのである。

その人は私の直属の先輩だった。大学を出たばかりで社会の何たるかをまるでわかっていなかった私に、社会での振舞い方を教えてくれたのはその先輩だ。押し付けるでもなく、それでいて甘やかすでもなく、少なくとも当時の私にとっては非常にありがたい接し方で、色々なことを結果的に教えてくれた人である。彼とは私があっさりとその会社を辞した後もしばらくは交流が続いていたが、ここ数年は連絡を絶やしていた。

挨拶する間もなく我々の初戦が始まったのだが、試合の審判はその先輩だった。三浦カズと同年齢であるその先輩は私が知っている当時、会社のサッカー部で主力として活躍していたが、今でもサッカー部で活動しているようで、その関係から審判を兼ねているのだ。試合前にセンターサークル付近で並ぶと自然に目が合い、お互いの顔がほころんだ。「お久しぶりです」「おお、久しぶり」と声を掛け合いながら握手をしていた。しかしまあ、試合直前なのでこの場はそれっきりで終えた。

私の不出来もあってチームは初戦を落とし、同じ予選グループに所属する先輩のチームは次元の違うサッカーで初戦を完勝していた。プレイヤーとしてだけでなく審判としても活動する彼とは積もる話に花を咲かせる間もないまま、我々は2戦目にその先輩がいる強豪チームと対決することになった。我々のチームは15人ほど所属する大所帯で、初戦に長いこと出ていた私は出場を遠慮して、対決を眺めていた。カズと同い年の先輩はカズのように(と言えばさすがに大げさだが)衰えを見せることなく躍動していた。ピッチの最後尾から的確にボールを散らし、機を見てはオーバーラップして攻撃に絡むという動きを見せていた。私にはそれが眩しく見えた。しかし圧倒的な実力差をものともせずに我がチームは粘りを見せ、同点のまま終盤を迎える。「・・さん、お願いします!」不意に私へ声が掛かった。今や我がチームは優勝候補相手に引き分けるという目標へ向け一丸となっていた。素人交じりのこのチーム内において客観的に見てもキープ力に長けている私はチームの総意を汲んで、かつてのブラジル代表におけるデニウソン(と言うのは本当に大げさだが)の如く、ボールを受けるとサイドライン付近でドリブルし、とにかくボールを失わないよう必死でキープして時間稼ぎをした。

タイムアップ。我々が優勝したかのように大騒ぎする横で、熱血漢でもあるその先輩は自らのチームメイトを呼び集め、反省会を開いていた。あるいは私が最後に見せた嫌らしいプレイが彼に火を点けたのかも知れぬと想像すると、何やら微笑ましかった。会話がほとんど無くとも、同じ場所でボールを蹴りあっているだけで会話を遥かに越えたのコミュニケーションがしばしば成されてしまうというのがサッカーの醍醐味であるが、まさにそういった空気が私と彼の間に漂っているような気がした。

その後先輩のチームは反省会の甲斐あってか、予想通り圧倒的な力を誇示し続けて優勝し、我々も健闘し上位へ食い込み賞品まで頂いた。その先輩とは対決の後、合間を見て少しだけ会話する時間が出来た。簡単な近況報告の後、ふと私が「しかし、僕とIさん(その先輩)が一緒にいた頃のIさんの年齢を、僕はいつの間にか超えてしまいましたよ」とノスタルジックなことを洩らすと、彼も遠くを見ながら「そうだな・・これからの何年かもあっという間だぞ」と、やはりノスタルジックに返した。私はその一言だけで、十分に満ち足りたのだった。二人はいつかの再会を約束して別れ、私は自転車にまたがり帰路へと向かった。

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